整体師の為の力学 - テコで動く体の仕組み

体はテコで動きます

様々な腰痛や膝痛を研究したり、各種の療法を学ぶことも良い事だと思いますが、もっと重要な事があります。当たり前すぎて見過ごしがちな機能解剖と物理・力学の知識をしっかり繋げることです。
地球上で身体(関節)がどう動くのかを確実に理解しておきましょう。

レバレッジ

レバレッジ。
テコ(レバー、lever)から転じて、資金の数倍から数十倍の金額を動かす投資の世界の用語です。レバレッジを使うと10万円の自己資金で200万円分の外貨を買えちゃったりするわけです。・・・意味がわかりませんが。

そんな投資の世界のレバレッジはさておき、体もテコを使って動いているというお話。この機能を上手く使わないと、意図しない余計な負荷が特定の筋肉に掛かります(いわば負のテコ)。

では、簡単なテコのお勉強。

梃子

テコと聞いて一番にイメージするのはこんなのではないでしょうか。
で、この手のテコの場合・・・・

梃子

.こうするより・・・・

梃子

.こうした方がパワフルなのは誰でもわかりますよね。んが、何事にもメリットデメリットがあるもので・・・・

Ⅰ.はそれなりの力が必要だけれど少ない動きで沢山動かせるのに対して(ハイギア)
Ⅱ.は軽い力で済むけれど大きな動きで少ししか動かせない(ローギア)

自転車のギアを思い浮かべてもらえればわかりやすいかと思います。それぞれの特徴を知って使い分けが必要ですね。

体を動かすというのは=テコを使って関節を動かすこと。その大半は・・・・・・

関節のテコ

こんな構造。それなりの力が必要だけど、少しの動きで沢山動かせるハイギア構造になっています。

関節のテコ

少しの力で動かせるけれど沢山動かなきゃいけないローギア構造はほとんどなく、体はハイギアで動いています

なぜ身体はハイギアで動くのか

『関節を動かすテコは、ローギアのほうが都合良いんじゃないか』
そんな風に思う人もいるでしょう。
速さが必要なわけでもないし、むしろ軽い力でパワフルな方が良さそうなのに・・・・不肖パンチ伊藤も疑問に思ったことがありますが、実はこれ、筋肉の特性がネックになっています。

筋肉は元の長さを100とした場合、110~130%など長めにしてからの方が力を発揮します。逆に言うと縮めば縮むほど力を発揮しなくなるのが筋肉の特性です。ま、縮まれる範囲が限られるので当たり前ですね。

つまり筋肉の縮み度合いが大きなローギア構造ではすぐに力を発揮しなくなってしまうので、十分な関節可動が得られないわけです。関節可動域一覧はこちら↓

https://www.tedikara.com/anatomy_category/rom/

さらに強力なテコを必要とするところ

レバレッジ。テコと聞いてこんなのを思い浮かべる人もいるでしょうか。

滑車のテコ

井戸のあれです。正式名所釣瓶(つるべ)。『つるべ落とし』の語源。筋肉が収縮して関節をテコの要領で動かす(もしくは固定する)わけですが、発生するテコのほとんどはスピードに長けたハイギア構造になっていて、あんまりパワフルではありません。
が、人体はまったくもって良く出来ているもので、よりパワーを必要とされるところには、釣瓶の滑車に似たようなものがあります。種子骨というやつです。

滑車のような梃子を生む膝蓋骨

人体最大の種子骨は膝のお皿【膝蓋骨】

滑車のような梃子を生む母趾種子骨

膝を目いっぱい曲げたときのお皿とか・・・・・釣瓶の滑車っぽく思えませんか?
実際、滑車のようにグルグル回っているわけではなく、あくまでイメージですけれど。

種子骨はあくまでイメージの問題ですが、実際に釣瓶の滑車みたいに動いて強力なテコが発生しているところもあります。短くなればなるほど力を発揮しなくなる筋肉の特性を補う重要な構造です。

滑車のテコ

Ⅰ.ある程度筋肉が縮まると落ちてくる力を・・・
Ⅱ.別の筋肉が働いて滑車を動かすことで縮り度合いを補って更に動かせる

ひとつの関節を動かすにしても、こうやって繋がって全身が動きます。体はけして肩とか腰とかパーツの寄せ集めではありません。この釣瓶テコが強力に働いている箇所・・・・どこだかわかりますでしょうか?

身体と曲げモーメント

某建築会社の会長さんが通ってくれていた時に『建築屋さんの目で身体を見て下さい』とお願いしたところ出てきた言葉が『曲げモーメント』。構造力学の基礎的な用語だそうですが、勉強嫌いの私には初耳でした。
その後、手力整体における身体の診方はより一層わかりやすいものになりました。感謝感謝。

もう1度上の1番簡単な梃子(シーソー)で簡単に説明します。

曲げモーメント

支点の真上(重力垂線上)にウエイトが乗っていれば、梃子(曲げモーメント)は発生せずシーソーは動きません。コレいわば良い姿勢。無理に筋肉で支える必要もないので痛みは出ません。

曲げモーメント

何かの拍子にウエイトが動くと支点に回転系の動きが発生します。このチカラを曲げモーメントと言います。

曲げモーメント

支点からウエイトが離れれば離れるほど、支点に生じる曲げモーメントは強力になります。ウエイト×レンジ(距離)=モーメント。掛け算で強くなる。まさにレバレッジです。

悪い姿勢が“悪い”本当の理由

私達が動く時は、無意識にウエイト(重心)をずらし梃子を使って動いています。逆に静止している時は支点の真上に重心を置いて梃子を発生させない事が理想です。重心と支点の関係がずれたままだと、常に“曲げモーメント”が発生しているので、姿勢の崩れや骨盤の歪みなどは悪化の一途をたどります。

姿勢と曲げモーメント

モーメントに耐えている筋肉はいつまでたってもリラックスできませんし、重力に負けて次第に伸ばされていきます。結果、慢性的な痛みが続き姿勢や骨盤の歪みはドンドン加速します。これが最大の問題なのです。

曲げモーメントが理解できると、症状として痛みの出る部位と本当のコリが隠れている場所が自ずと見えてきます。隠れたコリを取り要所要所の重心コントロールを取り戻せば、良い姿勢はやっぱり良い!と感じられるはずです。

まとめ

身体を診るなら基本的な物理を理解しましょう。
人間とて生き物である前にモノです。地球上のものは万物共通の物理に影響されています。無重力なら腰痛や肩こりは激減すると思いますが・・・形変わっちゃいますよね、きっと。

知らないと損しか無い身体の事実

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機能解剖の丸暗記は意味がない。

大切なのは「なぜ」を繋ぐこと。
物理や自然の摂理、他の生き物のことにも視野を広げると、
身体の「なぜ」が繋がりだします。

死ぬまで使う自分の身体のことを愉しく学びましょう。

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